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飲食店の運営
飲食店売却の基本|種類・相場・閉店手続き・注意点をわかりやすく解説

飲食店を手放したいと考えたとき、今後の選択肢の一つに「売却」があります。売却手続きを進める際は、一般的な価格相場や手続き上の注意点を理解しておくことが、後々のトラブルや損失を防ぐことにつながります。
この記事では、飲食店売却を考えているオーナーが押さえておくべき基礎知識を解説します。売却の種類や相場、手続きの流れを把握し、計画的に準備を進めましょう。
飲食店売却の種類とメリット・デメリット
飲食店を売却する方法には、大きく「居抜き売却」と「M&A(事業譲渡/株式譲渡)」の2種類があります。どの方法が適しているかは、店舗の状況や売却の目的によって異なります。まずは、それぞれのメリット・デメリットを理解し、自分のケースに当てはめて考えてみましょう。
居抜き売却
居抜き売却とは、店舗内の設備や内装を残したまま、居抜きの状態で次の経営者に引き継ぐことです。個人経営の飲食店では一般的な売却手段であり、コストを抑えながら店舗をスムーズに引き渡すことができます。
居抜き売却のメリット・デメリットは次のとおりです。
メリット
- ・設備の処分費や原状回復工事費を抑えられる
- ・引き渡しの直前まで営業を続けられる
- ・造作譲渡料を得られる
居抜き売却では設備や内装も丸ごと引き渡すため、売却前の解体工事が必要ありません。これにより撤退費用を抑えられるほか、手続きが行われている間も通常通りに営業を続けることが可能で、解約予告期間中の賃料を削減できるメリットもあります。
デメリット
- ・店舗の立地や評判が売却価格に影響しやすい
- ・スタッフに売却計画を知られる可能性がある
- ・契約条件や設備の状態によってはトラブルになりやすい
居抜き売却では、店舗の立地や評判が買い手の判断に直結するため、条件によっては売却価格が下がることがあります。また、早い段階で閉店計画がスタッフに伝わってしまうと、働くモチベーションが低下し、人材流出につながることも懸念されます。
M&A(事業譲渡/株式譲渡)
M&Aとは「合併(Mergers)と買収(Acquisitions)」を意味し、主な手法に「事業譲渡」や「株式譲渡」があります。居抜き売却は設備や内装だけを譲渡するのに対し、M&Aは事業や会社そのものを引き継ぐ形で、事業ノウハウや従業員などの無形資産も含めて包括的に譲渡できるのが特徴です。
· 事業譲渡:事業の一部または全部を第三者に譲渡する方法
· 株式譲渡:保有株式を第三者に譲渡し、経営権を移転させる方法
M&Aのメリット・デメリットは次のとおりです。
メリット
- ・高額売却が期待できる
- ・スタッフの雇用を守れる
- ・取引先との関係を維持できる
- ・後継者問題が解消する
M&Aでは事業全体を引き継ぐため、従業員や取引先との関係を保ちながら、将来の収益力まで含めて評価されます。後継者不足を理由に撤退を検討している場合も、事業や会社を次のオーナーに引き継ぐM&Aが有力な選択肢となるでしょう。
デメリット
- ・譲渡までに時間がかかる
- ・買い手が限定される
- ・顧客や取引先との関係が悪化する可能性がある
M&Aは事前調査や契約交渉に時間を要し、居抜き物件と比べて買い手も限定されやすい点がデメリットとなります。また、経営方針や取引条件の見直し、ブランドイメージの変化などにより、顧客や取引先との信頼関係が損なわれる可能性があります。
飲食店売却の相場価格

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飲食店を売却する際、どのくらいの価格で売れるのかは気になるポイントです。ここでは、居抜き売却とM&Aの相場感を紹介し、売却価格の目安や算出方法をわかりやすく解説します。
居抜き売却の相場価格
居抜き売却の相場価格は、20坪程度の小規模な店舗で50〜150万円程度(東京都内)といわれています。ただし、実際には店舗規模や設備の状態、立地条件などさまざまな要素によって変動するため、あくまで一般的な目安として考えてください。
また、売却価格の目安として、「坪単価」(1坪あたりの月額家賃)の60〜100倍を参考にする方法もあります。例えば、25坪の店舗で月額家賃が45万円の場合、1坪当たりの単価は1.8万円です。これの60〜100倍と考えると、売却価格の目安はおよそ108万〜180万円となります。
M&Aの相場価格
M&Aでの飲食店売却では、有形資産・無形資産を含めて事業や会社全体の価値が評価されます。明確な相場はありませんが、一般的には「時価純資産+営業利益の2〜5年分」が目安となります。
例えば、時価純資産が800万円、年間営業利益が300万円の場合、M&Aによる売却価格は以下のように試算できます。
計算例
【最小ケース(営業利益×2年)】
800万円 + 300万円 × 2
= 800万円 + 600万円 = 1,400万円
【最大ケース(営業利益×5年)】
800万円 + 300万円 × 5
= 800万円 + 1,500万円 = 2,300万円
このケースでは、1,400〜2,300万円ほどが相場となります。
今後の収益性が反映される分、居抜き売却よりも高額になる傾向がありますが、最終的な価格はデューデリジェンス(対象企業の価値やリスクを事前に調査するプロセス)の結果や契約交渉によって決まります。
売却価格に影響を与える要素
飲食店の売却価格は、設備や内装以外にもさまざま要素が影響します。
相場を左右する主なポイントは次のとおりです。
- ・立地:駅前や商業施設の近くなど、買い手のニーズが大きいエリア
- ・店舗の規模:面積や席数が適切で、効率的に運営できる店舗
- ・店舗の状態:内装や設備の状態が良好で、清潔感のある店舗
- ・売上・利益の実績:安定した収益を得ている店舗
- ・ブランド力:地域での認知度や評判、口コミ評価など
これらの要素は事前に改善できる部分も多いため、店舗の現状を見直しつつ、必要な準備をしておくとよいでしょう。取り組み次第では買い手からの評価が高まり、売却価格をより有利に設定できる可能性があります。
閉店・廃業時に必要な手続き
飲食店を閉店・廃業する際には、関係者への通知や行政手続きまで、さまざまな対応が必要となります。これを怠ると、後々トラブルや余計な費用が発生することがあるため、早いうちから手続きを整理して計画的に進めましょう。
下記は閉店・廃業時に行う手続きの一例です。
閉店・廃業前の準備
- ・スタッフへの解雇通知
- ・不動産会社への解約通知
- ・取引先への通知
- ・各種契約の解約手続き
閉店・廃業後の対応
- ・店舗の原状回復工事
- ・設備の撤去・返却
- ・税務署や保健所への届出
なお、売却や譲渡を選択する場合は不要となる手続きも多く、閉店に伴う手間や費用を減らしながらスムーズに事業を引き渡すことができます。
飲食店の閉店・廃業時に必要な届出については下表を参考にしてください。
閉店・廃業に伴う手続き(一例)
提出期限
届出書(提出先)
廃業日から5日以内
健康保険・厚生年金保険適用事業所全喪届(年金事務所)
健康保険・厚生年金保険被保険者喪失届(年金事務所)
廃業日から10日以内
廃業届/食品営業許可証の返還(保健所)
事業開始(廃止)等申告書(都道府県税事務所)
廃業日翌日から10日以内
雇用保険適用事業所廃止届(公共職業安定所)
雇用保険被保険者資格喪失届(公共職業安定所)
雇用保険被保険者離職証明書(公共職業安定所)
廃業日から1カ月以内
個人事業の開業・廃業等届出書(税務署)
給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書(税務署)
廃業日翌日から50日以内
労働保険確定保険料申告書(労働基準監督署)
廃業後速やかに(※)
消費税の事業廃止届出書(税務署)
防火管理者選任(解任)届出書(消防署)
※法的期限はないものの、遅滞なく速やかに届け出る必要がある
飲食店の閉店・廃業手続きについては以下の記事でも詳しく解説しています。
関連記事:「店をたたむ」と決断したら|飲食店オーナーが知っておくべき手続きの流れと再出発の選択肢
飲食店を売却するときの注意点
飲食店売却にあたって押さえておくべきポイントを解説します。対応を誤るとトラブルにつながる恐れがあるため、売却時の注意点を事前に把握しておきましょう。
売却できるもの・できないもの
居抜き売却の場合、どこまでが売却の対象となるのかを明確にしておくことが重要です。基本的には、売り手に所有権がある厨房設備や什器、家具、内装などは売却対象となります。一方で、食材や調味料などの消耗品は衛生管理の観点から譲渡できず、事前に処分しておく必要があります。
また、リース契約で利用している機器類も売却対象外です。これらは契約上リース会社に所有権があるため、売り手が勝手に売却することはできません。ただし、買い手がリース契約を引き継ぐ形で調整できるケースもあります。
居抜き物件の「原状回復義務」
原則として、賃貸借契約には「退去時に原状回復を行う」義務が定められています。ただし、居抜きで退去する場合は旧貸借人(売り手)の原状回復義務が免除され、新貸借人(買い手)がこの義務を負うことになるのが一般的です。
とはいえ、居抜き物件では「原状」がどの状態を指すのかがわかりにくく、思わぬトラブルに発展する可能性もあります。これを防ぐには、契約書に「退去予定者は原状回復義務が免除される」旨を明記し、内装や設備の引き渡し範囲についても事前に細かく取り決めておくのが望ましいでしょう。
営業許可・賃貸借契約
居抜き売却や事業譲渡の場合、飲食店の営業許可は譲渡できず、原則として買い手による再取得が必要です。一方、株式譲渡であれば法人自体は存続するため、営業許可はそのまま継続されます。
また、賃貸借契約に関しては「譲渡禁止条項」が盛り込まれているケースも多く、貸主の承諾がなければ引き継げない可能性があります。そのため、売却や譲渡を検討する際には、事前に貸主の許可を得ておくことが不可欠です。
飲食店売却をお考えの方に

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事業撤退を考えるとき、その手段は売却や譲渡だけではありません。経験豊富なパートナーに店舗運営を委託し、事業を継続していく選択肢もあります。「お店は維持したいが、自分で運営するのは難しい」と感じている経営者にとって、業務委託による第三者への引き継ぎは有効な選択肢となるでしょう。
飲食店が業務委託を結ぶメリット
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飲食店が業務委託をする場合、スタッフの採用・育成コストがかからず、経験者のノウハウをすぐに活用できるメリットがあります。将来的に売却や譲渡を考えている場合でも、事業を継続すれば安定した収益が得られるため、判断を焦らず適切なタイミングを見極めることができます。
飲食店の業務委託については以下の記事でも詳しく解説しています。
店舗運営を委託するなら「店タク」
店タクは、「お店を任せたい人」と「お店を持ちたい人」を業務委託という仕組みでつなぐマッチングサービスです。人手不足や売上低迷など、飲食店オーナーが抱える店舗運営の悩みは「独立志向の強い職人と組む」ことで解決できます。
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まとめ
飲食店を売却する方法には、主に「居抜き売却」と「M&A(事業譲渡/株式譲渡)」があります。居抜きは設備や内装を残したまま引き渡すため、コストを抑えながら短期間で譲渡できるのが特徴です。一方、M&Aは事業や法人ごと引き継ぐため、売却価格が高くなりやすく、スタッフや取引先との関係を維持しやすいメリットがあります。
また、売却や譲渡だけでなく、信頼できる人材に店舗運営を委託するのも一つの方法です。それぞれの特徴や注意点を理解したうえで、オーナーの希望や自店の状況に合う最適な方法を選択することが大切です。
店タクは、飲食店オーナーが抱える店舗運営の悩みを「職人と組む」ことで解決するサービスです。売却や譲渡を決断する前に、信頼できる第三者に“店舗運営を委託する”という選択肢も検討してみてはいかがでしょうか。
飲食店運用のヒント