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飲食店の運営
飲食店における人件費の目安とは?失敗しないコスト最適化の方法を詳しく解説

飲食店経営において、人件費は売上の大きな割合を占める重要なコストです。人件費が高すぎると利益が圧迫され、低すぎるとサービス品質や従業員満足度に影響が及ぶため、適切なバランスで管理することが求められます。それでは、経営上のリスクやトラブルを防ぎつつ、人件費を最適化していくにはどうすればよいのでしょうか。
この記事では、飲食店における人件費の目安とともに、失敗しないコスト最適化の方法を詳しく解説します。人件費の抑制は短期的には利益を生む一方で、現場に過度な負担を強いる恐れがあるため、安易な削減に踏み切らないことが重要です。
人件費とは
人件費とは、企業や店舗が事業を運営するうえで必要となる「人材」に関わる経費全般を指します。従業員の労働に対して支払われる給与のほか、賞与や福利厚生費、教育・研修費、退職金なども含まれます。一般的には「固定費」として扱われますが、繁忙期の対応で一時的に人員を増やす場合など、売上や状況に応じて柔軟に変動できる側面もあります。
飲食店においては食材費と並ぶ大きな経費であり、人件費の内訳や比率を正しく把握・管理することが健全な店舗経営につながります。適切な人件費管理は、過剰なコストを抑えて利益を確保するとともに、サービス品質の維持やスタッフの働きやすさにも寄与します。
人件費に含まれる項目
飲食店の人件費に含まれる主な項目を下表にまとめています。
項目
詳細
所定内賃金
毎月支給する基本給・手当(役職手当や通勤手当など)
所定外賃金
時間外手当、深夜勤務の割増賃金、休日出勤手当など
賞与・一時金
給与とは別に支給する報酬
福利厚生費
社会保険料、社員食堂、社員旅行、特別休暇など
研修・教育費
従業員のスキル向上や資格取得のための費用
退職金
退職金制度に基づく一時的な賃金
飲食店における人件費率の目安
飲食店の人件費率は、一般的に「30%前後」が目安とされています。
ただし、店舗の規模や業態によって適切な人件費率は異なるため、この数値はあくまで目安として捉えるようにしましょう。
人件費率とは、売上高に対する人件費の割合を示す指標です。
【計算式】人件費 ÷ 売上高 × 100(%)
例えば、ある飲食店の月商が200万円で、人件費に60万円かかっている場合、このお店の人件費率は以下のように算出できます。
【計算例】60万円 ÷ 200万円 × 100 = 30%
人件費とFLコストの関係
FLコストとは、食材費(Food)と人件費(Labor)を合わせたコストのことです。これらは飲食店の経費の大部分を占める重要なコストであり、経営者には売上高に占めるFLコストの割合、つまり「FLコスト比率」を常に把握し、適正化することが求められます。
飲食店におけるFLコスト比率の適正値は「60%」といわれています。先述したように、人件費率の目安は「30%」であるため、食材比率・人件費率ともに30%程度に収めるのが理想のFLコスト比率と考えられます。
ただし、実際には業種や業態によってバランスは異なります。例えば、食材費率が20%と低い業態であれば、人件費率が40%になってもFLコスト比率は60%に収まるため、健全な経営ができているといえます。このように、人件費と食材費を個別に見るのではなく、FLコスト全体で管理することが重要です。
飲食店の人件費を最適化する方法

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飲食店経営においては、人件費を抑えつつサービスの品質やスタッフの定着を維持する工夫が欠かせません。顧客に提供する価値を保ちながら、自店の人件費を最適化するには以下のような方法が考えられます。
- ・人員配置の見直し
- ・オペレーションの改善
- ・システム導入による効率化
- ・スタッフ教育によるスキル向上
- ・業務委託の活用
これらの方法について以下で詳しく解説します。
人員配置の見直し
飲食店の忙しさは、曜日や時間帯によって波があります。ランチやディナーのピーク時には十分な人数のスタッフを配置する必要がありますが、ピーク時以外のアイドルタイムでは、少ない人数でも問題なく対応できるケースが多いでしょう。
こうした変動に合わせてスタッフのシフトや勤務時間を調整すれば、一人ひとりに過度な負担を強いることなく人件費を抑えられます。さらに、スタッフの適性に応じた人員配置を行うことで、業務効率やモチベーションが高まり、残業時間の抑制につながる効果が期待できます。
オペレーションの改善
飲食店の現場では、既存のマニュアルが形骸化し、スタッフそれぞれが独自のやり方で作業を行うことも少なくありません。その結果、無駄な動きや重複作業が生じ、非効率なオペレーションになっていることがあります。
人件費を抑制するためには、現行の業務フローや手順を見直し、オペレーションを最適化することが重要です。無駄な作業が減れば、ミスや手戻りの削減、業務効率の改善につながり、少人数でもスムーズに業務を回せるようになります。新人・ベテランにかかわらず、誰もが一定の基準で業務を遂行できるよう、作業手順やマニュアルを標準化することが大切です。
システム導入による効率化
顧客からの予約や注文、売上集計、在庫管理などを手作業で行っている飲食店では、これらの作業にシステムを導入することで、スタッフの負担を大幅に軽減できます。飲食店においては、以下のようなシステムが業務の自動化・効率化に効果的です。
システム
用途
予約管理システム
電話・Webからの予約受付やキャンセル状況の確認
ハンディターミナル
客席での注文入力やオーダー状況の確認
POSレジ・POSシステム
会計処理や売上集計
在庫管理システム
食品・備品の在庫確認や自動発注
勤怠管理システム
勤務時間の集計や残業・休暇の管理
システム導入には初期投資が必要ですが、長期的に見れば人件費削減と業務効率化の両面での効果が期待できます。
スタッフ教育によるスキル向上
飲食店の人件費を抑えるには、スタッフのスキル向上も欠かせません。全員が一定のクオリティで作業できるよう、現場に即した手順書やマニュアルの整備、ベテランスタッフによるOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)やロールプレイングなど、計画的な教育・指導を行うことが重要です。
スタッフのスキルが向上すれば、顧客に提供するサービス品質も高まり、売上やリピート率に好影響を与えます。また、教育体制が整っている飲食店はスタッフが働きやすく、高い定着率が期待できるため、新しい人材の採用・育成コストの削減にも寄与します。
業務委託の活用
飲食店で発生するすべての業務を店舗スタッフだけで対応している場合は、清掃や調理補助など一部の作業を外部に任せることで、自店での雇用コストを削減できる可能性があります。また、現場管理の手間をなくして経営のみに集中したい場合は、店舗運営そのものを信頼できる第三者に委託するという方法も考えられます。
業務委託を活用すると、採用・育成コストをかけずに、飲食店経験者のノウハウをすぐに活かせるという利点があります。具体的なメリットや雇用との違いについては以下の記事でも詳しく解説していますので、本記事とあわせて参考にしてください。
関連記事:飲食店が業務委託をするメリット・デメリットとは?雇用契約との違いを詳しく解説
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安易な人件費削減が招くトラブル例
人件費を抑えることは経営改善に有効ですが、安易に削減を進めるとさまざまなトラブルに発展するリスクがあります。
ここで言う「安易な人件費削減」とは、短期的にコストを減らすことだけを考え、長期的な経営への影響を考慮しない削減方法を指します。例えば、忙しい時間帯でも最小限のスタッフで回す、十分な教育や研修を行わずに現場に出す、福利厚生を極端に縮小するなど、現場で働くスタッフに大きな負担を強いるような方法がこれにあたります。
具体的にどのような事態が起こり得るのか、飲食店において安易な人件費削減が招くトラブル例を3つ紹介します。
現場の負担増によるミスや事故の発生
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人件費を無理に削減することは、現場のスタッフに過度な負担を強いることに直結します。人手不足の状態で業務を回そうとすれば、一人あたりの作業量が増え、注文ミスや配膳の取り違え、衛生管理の不備などが発生する可能性が高まります。さらに、包丁や火器による切り傷・やけど、ホール内での転倒による負傷といった労働災害を引き起こすリスクもあります。
こうした事態を防ぐには、適切な人員配置や業務効率化の取り組みが欠かせません。現場の負担を増やさずに、少人数でも安全かつ効率的に業務を遂行できる体制を整えることが重要です。
サービス品質の低下によるクレーム・顧客離れ
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安易な人件費削減は、スタッフの負担を増やすだけでなく、顧客に提供するサービス品質にも悪影響を及ぼします。人件費を削ったことで人手やスキルが不足すると、料理の提供が遅れたり、オーダーミスが多発したり、味や盛り付けにばらつきが出たりと、サービス品質に直結する問題が起こりやすくなります。
こうした状況が続けば、顧客満足度は著しく低下し、クレームの増加やリピーター離れにつながります。当然ながら売上にも大きな打撃を与えてしまい、本来のコスト削減効果は帳消しになるどころか、かえって経営悪化を招きかねません。重要なのは「削減」ではなく「最適化」であり、オペレーションの改善や教育体制の強化によって、効率的な運営とサービス品質の維持を両立させることが求められます。
スタッフのモチベーション低下と離職リスクの増大
人件費を抑えるために無理なシフトや過重労働を求めたり、反対に極端にシフトを削ったりすると、スタッフの働きがいやモチベーションは低下します。特に、長時間労働は疲労やストレスの原因となり、心身の不調や労災リスク、さらには長期休職や離職につながる恐れがあります。これを防ぐには、需要に応じたシフト管理や個々の適性に合わせた配置、さらには一部業務の外部委託などを取り入れ、スタッフが安心して働ける環境を整えることが重要です。
人件費を抑えつつ従業員満足度を維持する仕組みづくり

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飲食店経営において、安易な人件費削減はスタッフのモチベーション低下につながるリスクが高く、結果としてサービス品質の低下や離職率の上昇を招く可能性があります。そもそも人材がいなければ経営自体が成り立たないため、現場の状況や負担を無視した強引なコストカットは絶対に避けるべきです。
飲食店が人件費の抑制に取り組むうえでは、まずスタッフが働きやすい環境や体制を整えることが前提となります。無駄を省いた効率的なオペレーションやシステムによる作業の自動化に加え、透明性の高い評価制度やインセンティブの導入、個々のスキルアップを後押しする教育・研修機会の提供など、スタッフの負担軽減とモチベーション維持を両立させる施策が求められます。
こうした取り組みはスタッフの定着を促進し、業務効率やサービス品質の向上にも寄与します。その結果、無理のない人件費の最適化が可能となり、安定した経営基盤の構築につながることが期待できます。
まとめ
飲食店の人件費率は「30%程度」が目安とされ、店舗にとっては食材費と並ぶ大きなコストとなります。人件費率が高い場合には、利益率の低下や設備投資への資金不足などが起こりやすい一方で、安易な削減はスタッフのモチベーションやサービス品質を低下させ、さらには離職増加や顧客離れのリスクを高める可能性があります。人件費の節約は“短期的なコストカット”に走らず、現場の状況やスタッフの働きやすさを考慮し、慎重に対応していくことが重要です。
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